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有 路 八千代
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素枯れゆく身の果てにして尚も恋ふとぎれとぎれの夢の断片 |
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| 思慕ひとつ胸処にありて最果ての空にうるめる星をみてゐる | |
| 待つ人もなき世に旅を重ねゐて燃えつつ沈む西陽みてゐる | |
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伍 井 さ よ
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| 流星はひそかに額をよぎりゆき夢の深みを振り返らむか |
| 白雲を仰ぎ旅ゆく身ひとつの思ひに添ひてけさの雁がね |
| 大徳利を土間に据ゑ置く霧の村とく幻の宴きくかな |
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遠 藤 幸 子
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| 夢に出て亡き父われに笑みて言ふ為すべきこと果しておいで |
| 門扉ひらき新聞入るる若き足音福音として今朝も待ちゐる |
| 大山蓮華の新芽こぞりて |
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岡 田 典 子
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| 我が母の吐息に似たる風のあり |
| 介護という辛さや喜びいただいて老後の在り方母より学ぶ |
| 風に乗り母の魂今ここにそう思いたいまだ日が浅く |
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桂 重 俊
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| 戦犯はこれならずして誰やあるカーチスルメイポールチベッツ |
| Ｂ２９三千機分の破壊力リトルボーイは投下されたり |
| リトルボーイの三千倍の威力もつツァーリボンバをソ連作りぬ |
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菅 野 哲 子
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| 野あざみに紛れそよげるたんぽぽと緑一色のなかの「無事庵」 |
| 野あざみの朝のかがやき素手に折る刺をば記憶となさむてのひら |
| 杉木立繁れるくらき山道は結界なりや |
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熊 谷 淑 子
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| すこしだけ休ませてねとゆうぐれは誰ともなしにつぶやいている |
| 甥ふたり寄り添いながら行く道の皐月のみどり濃き陰をもつ |
| 沈黙のわれらの前にただようは触れたら凍る翅のひとひら |
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小 松 久仁子
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| 朝食に帰らぬわれを不安もて待ちゐむ夫の顔がちらつく |
| 人気なき山の気が吸ふわがいのち辷り |
| ヒッチハイクきめこみたるは機転なり待つ夫の顔想ふばかりに |
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桜 井 千恵子
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| いちにんの死を見尽ししわれの春老桜の声に呼ばれて立ちぬ |
| たましひに似て小さなる鳥たちよわが寄りゆけば空へ飛び立つ |
| 月を待ち陽を待ちあをき風を待ち死を待つならむいにしへの松 |
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佐 藤 淑 子
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| 心地よく疲れし夕べは窓に寄り五月の光る海を恋しむ |
| 百韻を挙げて眼をしばたけり充実感に身を委ねつつ |
| 潮騒を鼓動のごとく聞きながら長く佇む海に対ひて |
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鈴 木 昱 子
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| 「ヴィヨン」なる美しき名を覚えたる少女期ありき或る看板に |
| 夏草の露けくにふ朝風に身は息づきてああ今日がある |
| 棚の上の一枝の薔薇の散る音に放たるるごと吾が椅子を立つ |
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高 橋 一 子
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| 君の言ふ〈若き心の番人〉がわれ行かむ先々立ち止まらせつ |
| 今はただ眠るとしよう夏炬燵かかせぬ吾に移る年月 |
| 欣ぶでもなく悲しむでもなく年明けて歩き始めつまた一首から |
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丹 治 久 惠
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唐突といふかはなし山は失せだれでもよかつたと |
| 高層ビルの上に夜を立つ起重機の先端の絞る照準は月 |
| また今日もクレーンが夕日を突き刺して彼方もわれも赫く融け出す |
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塔 原 武 夫
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| 遠く近く啼くととぎすの声透る水無月の杜ふかぶか冥く |
| ほろほろと袋に花の種子あつめ明日を夢みるこのはかなごと |
| 滅びへと時刻みゆくこの星の塵のひとつと思いたくなし |
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原 田 夏 子
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| 鬼と |
| ながながと辿る夜更の地下道をわが靴音に追はれてゐたり |
| 玉砕の島々の記録読みさして寝ねむとすれど猛る夜嵐 |
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本 木 定 子 |
| 心のなか深くは覗かぬことにするひなたぼっこの背中がぬくい |
| 日傘さすま昼の道に影小さしわたしのからだかけらもなくて |
| 童謡の「はぜの葉紅くて入り日色」いまこのあたりの人生とする |
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大 和 類 子 |
| つかのまの桜吹雪の並木道在りて在らざる同行ふたり |
| 純白のあぢさゐの花身の錆は洗ふすべなしてのひら翳す |
