作並や湯けむりしたし軒菖蒲 丹治 久恵
林間遠く郭公のこゑ 菅野 哲子
釣革にすがりゆるるが楽しくて 小松久仁子
道に口笛知らず吹きゐる 大和 類子
満月に蘇りくるおもかげか 桂 重俊
うみ おもて
湖の面もさわやかなりし 原田 夏子
衣かつぎつるりとむけるほどに茹で 本木 定子
肩ぐるましてみる星祭り 伍井 さよ
ウ つなぎたる手を振りながら追ひかける 有路八千代
蔵王の麓の大根畑 八乙女由朗
筮竹に迷ひはさらに深まりて 穴山 恭子
小舟のさまに空ゆく思ひ 柴田 康子
くれなゐの蘇芳の花はやさしかり 香川 潤子
春一番に押されつつゐる さ よ
かすみたつ塔のようなる住ひ買ふ 哲 子
三日をかけてめぐる名園 重 俊
町工場とりこはされて霜をおく 久仁子
少年と老い川辺に立ちて 康 子
待ち待ちし月下のうたげ雨となり 久 恵
願の糸をかけるかのひと 類 子
寄りそひて虫なく原に坐りたり 八千代
高く伸びゆく梯子のあれば 夏 子
二オ 希みゐる些かごとのあればこそ 潤 子
日暮れておりし机のあたり 恭 子
かたくりの花も馳走の膳につき 八千代
入学式の晴着をしまふ 定 子
送りこし干菓子は蝶の形にて 恭 子
さぬきうどんを汗流し食む 八千代
やはらかき落葉の嵩に身を沈め 久 恵
山里深くもろこし揺らぐ 久仁子
有明けの月を仰ぐは鴉のみ 類 子
四弘誓願文日々に唱ふる 重 俊
夫のため遍路かさねて鈴ふるや 康 子
いづこよりくる風の苛立ち 由 朗
木の橋のたもとに逢ひしきみにして さ よ
あはあはとなる面影を追ふ 八千代
二ウ 一通のふみに誘はれ帯えらぶ 哲 子
うしろで
後姿見せて去りしは寂し 潤 子
蛍狩ふたたびせむと野の道に 由 朗
梢に棲めるものの動ける 夏 子
送迎の車の中に学びつつ 重 俊
きのこなど売る古き駅舎は 哲 子
ひるぜん
黙々と蕎麦切る男蒜山に 久仁子
ただにおろがむ荒神輿なり 類 子
好色もほどほどにして西鶴忌 久 恵
逝きし思へば酔芙蓉昏るる 康 子
零余子飯それほどうまくなかりけり 重 俊
月に似合ひし清貧の家 定 子
店閉づる女あるじの細き肩 哲 子
吐く息白く通りゆくなり 夏 子
うみ
三オ 凍りたる湖に釣りする己が身を 由 朗
呼ぶこゑもなくつれづれにして 潤 子
朧夜の扇交はししのちのこと 久 恵
風船売が売る恋もある 類 子
知る限り花の名数へ眠らむと 哲 子
桟敷でつまむ蚕豆の味 恭 子
いつの間に裾にすがれるゐのこづち 夏 子
秋空碧し仰ぎ飽かなく 潤 子
てつぺんに残る間のなき木守柿 由 朗
名月の座に新芋を添へ さ よ
喃喃ときこゆるそれはどこまでも 類 子
雪をんなにはなれぬとふ 恭
子
年忘れ孫いくたりにまざりゐる 重 俊
喪服着ることつづく齢に 哲 子
三ウ 「肩凝り」をはじめて記す漱石は さ よ
新酒を酌みて独りを酔はむ 久 恵
かなしきやすがしきものや月のこゑ 康 子
木の実の落つるしじまひろがる 哲 子
姉妹の二重唱はや衰へて 定 子
読み終へて閉づある人生を さ よ
逢瀬にも監視きびしき関のあり 夏 子
同じき部屋に何事ありし 重 俊
古日記若かりし日の秘められて 久仁子
風になり来よわが髪なでに 恭 子
ぎせる
舞台にはいやさお富の長煙管 久 恵
雀踊りの練習ざかり 定 子
棄てられし子猫なきなき夜の更けを 八千代
落ちし椿のかたちそのまま 潤 子
名オ しづかにもわが辺に来たる春日差し 康 子
いたどり
虎杖高く隣に繁る 恭 子
梅花藻は清き流れの湧水に 久仁子
結び文入れ足早に去る 由 朗
動悸いま押さへんとして深呼吸 定 子
ひとすぢに澄む旅の単線 さ よ
砂丘にて美しき風紋みてかへる 類 子
江戸風鈴に金魚泳がせ 久 恵
頭上高き入道雲のおさまりて 夏 子
月下に跳る魑魅と魍魎 由 朗
すすき原放てる野火のめらめらと 八千代
芋煮の会に焦げし川石 恭 子
たすきかけ昔なつかし障子貼る 類 子
峯を飛びたつ鳥の群あり 久仁子
名ウ ゆたかなる並木の枝の白さやか 潤 子
今宵も語る冬の星々 康 子
楽しさを経めとの教へ尊けれ 夏 子
せな
背を叩きしそのあたたかさ 類 子
泣き飽かぬ赤子抱くさへのどかなる さ よ
吉野の桜わがものにする 八千代
雛の市享保の面なまめきて 定 子
飛天童女の舞ひ遊びをり 久 恵
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