平成16年5月12日 於作並湯ノ原ホテル

賦朝何連歌 百韻


   作並や湯けむりしたし軒菖蒲 丹治 久恵
   林間遠く郭公のこゑ 菅野 哲子
   釣革にすがりゆるるが楽しくて 小松久仁子
   道に口笛知らず吹きゐる 大和 類子
   満月に蘇りくるおもかげか 桂  重俊
     うみ おもて
   湖の面もさわやかなりし 原田 夏子
   衣かつぎつるりとむけるほどに茹で 本木 定子
   肩ぐるましてみる星祭り 伍井 さよ

 ウ つなぎたる手を振りながら追ひかける 有路八千代
   蔵王の麓の大根畑 八乙女由朗
   筮竹に迷ひはさらに深まりて 穴山 恭子
   小舟のさまに空ゆく思ひ 柴田 康子
   くれなゐの蘇芳の花はやさしかり 香川 潤子
   春一番に押されつつゐる さ よ
   かすみたつ塔のようなる住ひ買ふ 哲 子
   三日をかけてめぐる名園 重 俊
   町工場とりこはされて霜をおく 久仁子
   少年と老い川辺に立ちて 康 子
   待ち待ちし月下のうたげ雨となり 久 恵
   願の糸をかけるかのひと 類 子
   寄りそひて虫なく原に坐りたり 八千代
   高く伸びゆく梯子のあれば 夏 子

二オ 希みゐる些かごとのあればこそ 潤 子
   日暮れておりし机のあたり 恭 子
   かたくりの花も馳走の膳につき 八千代
   入学式の晴着をしまふ 定 子
   送りこし干菓子は蝶の形にて 恭 子
   さぬきうどんを汗流し食む 八千代
   やはらかき落葉の嵩に身を沈め 久 恵
   山里深くもろこし揺らぐ 久仁子
   有明けの月を仰ぐは鴉のみ 類 子
   四弘誓願文日々に唱ふる 重 俊
   夫のため遍路かさねて鈴ふるや 康 子
   いづこよりくる風の苛立ち 由 朗
   木の橋のたもとに逢ひしきみにして さ よ
   あはあはとなる面影を追ふ 八千代

二ウ 一通のふみに誘はれ帯えらぶ 哲 子
    うしろで
   後姿見せて去りしは寂し 潤 子
   蛍狩ふたたびせむと野の道に 由 朗
   梢に棲めるものの動ける 夏 子
   送迎の車の中に学びつつ 重 俊
   きのこなど売る古き駅舎は 哲 子
                 ひるぜん
   黙々と蕎麦切る男蒜山に 久仁子
   ただにおろがむ荒神輿なり 類 子
   好色もほどほどにして西鶴忌 久 恵
   逝きし思へば酔芙蓉昏るる 康 子
   零余子飯それほどうまくなかりけり 重 俊
   月に似合ひし清貧の家 定 子
   店閉づる女あるじの細き肩 哲 子
   吐く息白く通りゆくなり 夏 子

           うみ
三オ 凍りたる湖に釣りする己が身を 由 朗
   呼ぶこゑもなくつれづれにして 潤 子
   朧夜の扇交はししのちのこと 久 恵
   風船売が売る恋もある 類 子
   知る限り花の名数へ眠らむと 哲 子
   桟敷でつまむ蚕豆の味 恭 子
   いつの間に裾にすがれるゐのこづち 夏 子
   秋空碧し仰ぎ飽かなく 潤 子
   てつぺんに残る間のなき木守柿 由 朗
   名月の座に新芋を添へ さ よ
   喃喃ときこゆるそれはどこまでも 類 子
   雪をんなにはなれぬとふ 恭 子
   年忘れ孫いくたりにまざりゐる 重 俊
   喪服着ることつづく齢に 哲 子

三ウ 「肩凝り」をはじめて記す漱石は さ よ
   新酒を酌みて独りを酔はむ 久 恵
   かなしきやすがしきものや月のこゑ 康 子
   木の実の落つるしじまひろがる 哲 子
   姉妹の二重唱はや衰へて 定 子
   読み終へて閉づある人生を さ よ
   逢瀬にも監視きびしき関のあり 夏 子
   同じき部屋に何事ありし 重 俊
   古日記若かりし日の秘められて 久仁子
   風になり来よわが髪なでに 恭 子
                      ぎせる
   舞台にはいやさお富の長煙管 久 恵
   雀踊りの練習ざかり 定 子
   棄てられし子猫なきなき夜の更けを 八千代
   落ちし椿のかたちそのまま 潤 子

名オ しづかにもわが辺に来たる春日差し 康 子
    いたどり
   虎杖高く隣に繁る 恭 子
   梅花藻は清き流れの湧水に 久仁子
   結び文入れ足早に去る 由 朗
   動悸いま押さへんとして深呼吸 定 子
   ひとすぢに澄む旅の単線 さ よ
   砂丘にて美しき風紋みてかへる 類 子
   江戸風鈴に金魚泳がせ 久 恵
   頭上高き入道雲のおさまりて 夏 子
   月下に跳る魑魅と魍魎 由 朗
   すすき原放てる野火のめらめらと 八千代
   芋煮の会に焦げし川石 恭 子
   たすきかけ昔なつかし障子貼る 類 子
   峯を飛びたつ鳥の群あり 久仁子

名ウ ゆたかなる並木の枝の白さやか 潤 子
   今宵も語る冬の星々 康 子
   楽しさを経めとの教へ尊けれ 夏 子
    せな
   背を叩きしそのあたたかさ 類 子
   泣き飽かぬ赤子抱くさへのどかなる さ よ
   吉野の桜わがものにする 八千代
   雛の市享保の面なまめきて 定 子
   飛天童女の舞ひ遊びをり 久 恵

 


八千代 八 恭子 八 さよ 八 潤子 七 重俊 七 哲子 八 久仁子 七
康子 七 久恵 九 夏子 八 定子 七 由朗 七 類子 九

〈一首評〉
『朝市』原田夏子歌集


 熱情の曲の高まり午後の露地思ひつめたる花のまた落つ

 この花は椿のはなであることが「わが露地」という小題と前後の作からわかり、椿の持つイマジネーションが一首をゆたかに膨らませている。「思ひつめたる」その花が「また」「落つ」るのである、そこに午後の静かななんとはなしの気怠い時間の経過がある。
 椿はやはり赤い色がいい、しかも一重咲きの薮椿がいい。
当然のことながら「思いつめたる花」は作者の心の在り処として機能している。「熱情の曲の高まり」というクライマックスと呼応するかのように極まってほとりと落ちる赤い椿は魂といってもいいか。散るのではない落ちるのである。未練がましくないこの花に寄せる思いは。

(丹治久恵)


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毎月大体第四日曜に超結社の歌会および研究会を行って研鑽に励んでいる。
前回以後の分は次の通りである。(
桂 重俊 記)

歌話会の歩み
2003・ 7月 歌会
8月 「北杜歌人?号」合評会
 
9月
歌会
 
10月
原田夏子「わが恋は」ではじまる歌
 
11月
歌会
  12月 総会・忘年会
2004・
1月
歌会
2月
坂田健 習書木簡について
 
3月
歌会
 
4月
桜の歌・桜に関する研究会
 
5月
一泊連歌歌会 作並、湯の原ホテル
 
6月
歌会


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