概要
対象研究分野
生体高分子への異物付加体形成によって生じる毒性発現機構
設立趣旨
生体高分子の付加体形成と毒性との関係は約100年前の発見に端を発する。すなわち、1915年に東京大学の山極勝三郎がコールタールをウサギの耳に数年間塗布することで化学発がん実験に成功し、その後ロンドン大学のErnest Kennawayがコールタール中のベンゾピレンが化学発がんの主要成分であることを報告した。さらに、NIHのHarry Gelboinによりベンゾピレンそれ自身に発がん性はなく、生体内で代謝活性化を受けて生じたジヒドロジオールエポキシド体(親電子代謝物)がDNAに共有結合して付加体を形成することを明らかにした。近代薬理学の父の一人と呼ばれたNIHのBernard Brodieはアセトアミノフェンの過剰投与で生じる肝臓の壊死が、その親電子代謝物であるキノンイミン体がタンパク質に共有結合して付加体を形成することが原因であることを突き止めた。このような研究成果より、親電子物質は悪玉であるという認識が一般化された。一方、1980年以降に生体内からも複数の内因性親電子物質が同定され、それらがシグナル分子であることが証明されたことから、親電子物質の功罪が認知され始めた。
このように異物や生体内物質によるタンパク質の付加体生成に興味を抱く研究者が増えたことから、毒性学を理解しながら研究領域を超えて新たな学問分野を創成すべきであると考えた。そこで、産官学の毒性学会の会員達と協議し、毒性学会および他学会の研究者がタンパク質の付加体形成で生じる細胞内レドックスシグナル系の変動やエピジェネティクスなどの生体内変化と、それに起因する疾患の発症に関する研究成果を公表し、情報交換する場を構築することを目的として、「付加体科学部会」の設立を提案した。